【Track Review】knot - cold planet【戦 [sen-goku] 國 ~夏の陣~】
先日、面白いトピックを発見した。
最初に断っておくと、「テクノは誰でも作れる」とは限らないと個人的に考える。
「テクノは誰でも作れる」というのは、謂わば「ピカソの絵は自分でも描ける」と言っているのと同じようなもので、「ピカソの絵は自分でも描ける」と主張し、ピカソの絵を念頭に置きながら描いた所で、それが「模倣」と評価されるのは何となく分かると思うが、それと同じく、テクノもテクノとしての文脈的な興味深さを伴わなければ、テクノらしいものを作ったとしても、テクノとして評価されるに値しない。
…さて、前置きはここまでにしつつ、今回このknot(現:Nankumo)氏の伝説的な作品を今一度評価しようと思ったのは、このようなトピックを発見してしまったのがきっかけである。
2007年、BOFが無い年に開催された「戦 [sen-goku] 國 ~夏の陣~」は、BOF並と言っても過言ではない程に賑わった大会で、登録作品の総数は100を超している。
この大会の作品には興味深いものが非常に多く、私自身に影響を齎した作品も多くあるのだが、その中でこの「cold planet」はこの大会の中でも最も気に入っている作品の一つというだけでなく、この大会の戦績としても2位と11票もの差をつけて優勝と、当時から非常に高く評価された作品だった。
その影響力は15年ほど経った現在でも未だに衰えておらず、最近ではqfeileadh氏の「whence」などにも影響を与えているらしい事が参照できる程である。
私はこの作品に対して「CLASSIC」の評価を下したのだが、その「CLASSIC」も、この作品に対しては非常に様々な面での意味を含有していると個人的に思う。
同人音楽としてのクラシック、Y2K時代のテクノとしてのクラシック、BMSとしてのクラシック、etc...
この作品は非常に多角的な面で、その出来栄えについて語ることが出来るが故に、未だに色褪せない魅力を保っている作品であると個人的に感じている。
例えばビジュアル面において、過度に減色されたこのBGAはY2K時代のBMS作品のBGAとして、現在では非常にアイコニックなものとなっているように感じられ、本人の思惑通り、「涼しげな雰囲気」を纏ったBGAとして、非常に絶大な効果を齎しているように思う。
楽曲面においても、特徴的な英語のボイスサンプリング、パンチーな四つ打ちのバスドラム、左右交互に鳴るスネア、度々絡む複雑なパーカッション、グライドするシンセサイザー、中間地帯に入り込むアルペジオなど様々な要素が完璧と言っても過言ではないようなさじ加減で一つに凝縮し、非常に中毒性の高い楽曲へと仕上がっている。
それに付随して、譜面も楽曲の中毒性に劣らないどころか、楽曲との相乗効果によって、結果的に更にこの作品の中毒性を底上げしたように思える。これは「曲に寄り添う」といった譜面としての理想像にしっかりと当てはまると個人的に感じる。
ここまでで色々書いてきたが、この作品はそれ以外にも魅力を見出すことが出来ると思っており、その非常に多くの魅力的な要素が一つの作品として結実した好例であるとも個人的に考えている。
この作品は2000年代のBMS作品の傑作という事は間違いないが、それ以外の文脈でも非常に多く語れる為に、2000年代のBMS作品としてではなく、もっと広い分野でもこの作品は傑作と言わざるを得ないと個人的に感じる。
さて、「テクノは誰でも作れる」とは言うが、果たしてこのようなアイコニックな作品は誰でも作れると言えるのか?
答えは決定的に「NO」だと私は強く主張する。
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